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低抵抗の測定実験

「低抵抗の測定」に関して調べてみると、巷では一気に難しい話しに成ることが多いです。学術的な文体で「四端子法」とか「熱起電力の影響」とか出てくると、油で汚れた手では調べる気分が無くなります(笑)。

オートバイや車の整備で必要となる低抵抗の測定はもっとおおざっぱです。大半は「基準値0.48Ωのステータコイル抵抗が、生きているのか死んでいるのかアースに落ちているのか?」的な作業です。

極端な言い方をすれば最初の1桁が解れば十分な事例が多いのです。しかし一般的な測定レンジでは無いために、普通のテスターでは意外と嘘の多いゾーンだった・・・と言う、オートバイや車を整備するときに気になるレベルの低抵抗測定メモです。


ここには抵抗の画像があります。

測定ターゲットとなる抵抗です。精密な基準用抵抗は我が家にあるどんなテスターよりも高価だったりするので、どこの部品屋でも売っているようなセメント抵抗です。

精度なんか解りません(笑)。でも同じメーカーの同じ系列であれば、いくらなんでも0.1Ωよりも0.15Ωの方が高抵抗だろう・・・程度の期待感を持っての試験です。

抵抗値は、0.1Ω、0.15Ω、0.2Ω、0.47Ω、1.0Ω、3.0Ω、5.0Ω、を用意してみました。


ここにはの画像があります。

測定器その1

岩通のデジタルマルチメータ「VOAC7413」です。高級品では有りませんがそれでも新品は買えません。いつもの様に広島のジャンク屋で買って来た製品ですが、程度が良かったので後で校正に出した我が家で唯一の信頼できる計測器です。

ここにはの画像があります。

抵抗レンジではゼロセットの機能を持っていますので、こんな感じで抵抗のリード線を咥えた状態でゼロにセットしてから測定しました。簡易的にテストリードや接触抵抗がキャンセルされます。以下2台のデジタルテスタにはこの機能が有りません。


ここにはの画像があります。

測定器その2

三和の「CD-782C」です。分解能なんかはたいしたこと無いのですが、電流が20Aまで測れたり真の実効値表示であったりするために、オートバイや車の電装品には便利です。

オプションのクランプ型電流センサと一緒に、ソーラーボートのPWMコントローラを作っている頃に買いました。特定の機能は良いのですが、普段の反応が遅いのは使いにくいです。


ここにはの画像があります。

測定器その3

マザーツールの「MT-3200」です。買ってから15年くらい経つような気がしますが、未だに内蔵の電池を交換していません。テストリードは蓑虫クリップに交換しています。

ラジオデパートの地下で1,000円位で買った記憶があります。手帳型でポケットに入るので、屋外作業や出張なんかには便利です。


ここにはの画像があります。

三和のアナログテスタ「SP-6D」です。私が中学生の頃にオヤジが買ってきた記憶があります。極々普通のアナログテスタではないでしょうか。

箱もテストリードも修理を重ねて居ますが当時のままです。アナログで見たいときは今でも使っています。当然ですがゼロセットの機能が有ります(^^)。

ここにはの画像があります。

低抵抗目盛りの拡大画像です。最小目盛りが0.2Ωまで有ります。意外と侮れない雰囲気があります。


 0.1Ω0.15Ω0.2Ω0.47Ω
VOAC74130.1010.1520.1990.4730.9993.0654.995
CD782C3.43.33.33.53.85.97.8
MT-32000.30.20.10.51.03.15.1
SP-6D0.150.150.20.51.03.15.1
CD782C電圧(mV)10.115.120.447.299.8314499

結果です。整備中の問題切り分けに使えるかどうかレベルで判断していくと、
 VOAC7413は全く問題なく使えますが、AC駆動の据え置き型です。
 CD782Cは5Ωの判定にも使えません。
 MT-3200は1Ω以上の判定なら使えそうです。
 SP-6Dは0.2Ω位から使えそうです。

一般的な電子回路で使う領域では無いためでしょう。価格や時代とは関係なく、かなり機種によって得手不得手の偏った結果が出てきました。

一般用のテスターを1台しか所有していない場合、かなり気をつけておかないと嘘の表示を見ている可能性があるわけです。仕様をきちんと見ておけば解ることなのですが、現実を目の前にするとやはり説得力があります。

ここにはの画像があります。

一番下の「CD782C電圧」と有るのは安定化電源の定電流モードを使って常時100mAを流すように設定し、上の画像の通りに4端子法を使って電圧を測定した結果です。

単純抵抗測定では一番成績の悪かったCD782Cに頑張って貰いました(^^)。結果的にかなり良いデータが取れており、全ての領域で実用に値すると思われます。


「定電流+電圧」の成績が良かったので、上記のテスター達はどの程度の電流で測定しているかを調べてみました。実際の実験は1Ωの抵抗を測定させて、その時の抵抗両端の電圧を別のテスターで測りました。抵抗が1Ωなので電圧の値=電流の値となります。

機種名VOAC7413CD782CMT-3200SP-6D
印加電圧(mV=mA)逆 10正 0.22正 0.455逆 72.3

測定電流の大きさが低抵抗の測定に大きな影響力を持っているのが解ります。CD782Cは今回の結果が悪かったのですが、上記の測定電流を見ると一番少なく、低消費電流とかそのほかの部分に重点を置いた設計なのだろうと予想できます。

反対にアナログのSP-6Dはメーターの感度は一番悪いはずなのですが、測定電流が大きいためにそれなりの実用性を有していることが解ります。

数値の前に付いている「正」「逆」は抵抗測定時の電流の向きです。赤のリードから電流が出て黒のリードに戻るのを「正」と記載しています。今のデジタル機の大半はこの向きかと思います。

昔のテスターでは内部回路の都合で逆向きが普通でした。そのためにダイオードやトランジスタの簡易試験を行う場合、「黒がプラス」と呟きながら試験した覚えがあります。岩通のデジタル機はデジタルなのに昔のままの「逆」特性でした。テスターはこっち向きのはず・・・と頑固な設計者が考えたのでしょうか?岩通らしい様な気がして何となく好きです。


2007年04月19日追記

ここには定電流アダプタの画像があります。

結局このようなアダプタを作りました。100mAの定電流源です。当初は電池で駆動して電圧計も一緒に組み込む予定だったのですが、電源装置の出口に差しかえて付ける方が便利だと解ったので、今はそのような形にまとめています。将来的にポータブル用途が必要になった場合は、バッテリー駆動の低抵抗テスタにまとめようかと思っています。

ここには定電流アダプタの画像があります。

今はこんな感じで、電源装置とリード線の間に割り込ませて使っています。

回路図中のコンデンサ2個は、イグニッションコイルなど特定の組み合わせ時に発振してしまったので試行錯誤で入れました。もっと最適な場所や最適な値が有るのだろうと思いますが、私は増幅器の位相とかポールとかをまともに勉強した人では無いので、この部分を理論的に予想したり追い詰めたりすることが出来ません。

回路はLM317を使った良くある定電流源です。ぴったり100mAに合わせるために、多回転のトリマで調節するようにしています。単純に並列にしてしまったので調整範囲が広すぎますが、上位の桁さえ解れば良いのですから、私にはこれで十分です。

100mAの根拠は。。。1Aでは発熱が多そうだし物によっては悪影響が有るかもしれない、かといってあまりに小さいとテスターの抵抗レンジとの差別化が難しいし。。。100mAなら1Ω時に100mVに成って、秋月の電圧計の199.9mV表示に直接ぶち込んだら丁度止さそう、抵抗も手持ちの1/4Wでいけそうだし。。。的な決め方です。

このアダプタの良いところは測定電流がテスターより大きめな所も有りますが、安物の蓑虫クリップを使っているとは言え四端子法で有ることかと思います。テストリードの接触抵抗を無視できるために、テスターの抵抗レンジと比べると測定時の数値の安定度が全く違います。


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