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GX250 セミトラの試作

先日イグニッションの波形を測定したのは単純に見てみたい気持ちも強かったのですが、将来の為にポイントに置き換えるTrやFETの耐圧を知りたかった訳です。

その時はポイント式の実測値として150V-200Vの逆起電力が観察されました。普通に考えれば最低でも500Vくらいの耐圧の石が必要と思われます。しかし耐圧が高いTrは飽和Vceが高めですし、同じように耐圧の高いFETはオン抵抗が高めです。

機械式のポイントは色々と問題がありますが、オンしているときの損失は何ボルトもあるわけでは有りません。これを半導体に置き換えたときに大幅に損失が増えてしまうと面白くありませんし、コイルに蓄えられるエネルギーも減少してしまいます。

今回の目的はポイントやコイルなどはそのままで、大電流のオンオフのみを半導体に置き換える回路です。そのためにスイッチング素子の損失は出来るだけ小さい物を選び、その際に不足がちな耐圧は並列に入れたサージ吸収用のサプレッサダイオードに受け持たせる事にしました。


ここにはセミトラ試作機の回路図があります。

FETは秋月電子で200円の2SK3192にしました。耐圧250Vでドレイン電流が30A、許容損失は100W有ります。電流や損失的には1回路に1個で済みそうですが耐圧がギリギリです。

そのために並列に200Vのサプレッサダイオードを入れました。サイズは良くわからなかったので売っている最大の1500W級にしました。本当にこれで良いのか??

ゲートの駆動はオフ側だけが重要なのでいつもの2SC1815でグランドに落とすだけにします。オン側は2SC1815に15mA程度流す事にして1kの抵抗にしました。2SK3192の入力容量が4200pF有りますのでゲート駆動回路のライズタイムを確認しておきます。

tr=2.2RC=2.2*1k*4200p=9.24us
となります。先日の測定から1200rpm時のドエルタイムは24msが解っていますから12000rpm時でも2.4ms有ります。これに対して9.24usは十分に短いので上側はTr無しの抵抗のみでOKとします。

2SC1815のコレクタ電流を14mAとしたのでベース電流は適当に1mAとしてベース抵抗は10kとしました。ベースの耐圧は±5Vしか無いので念のために3Vのツェナーを入れておきます。

ポイントに流す電流は相当悩みましたが、気分で(笑)50mA程度に決めました。あまり大きいと接点の荒れなどが起こりますし、小さすぎると酸化物や汚れで接触不良が起こります。この辺りは実際の試験で追い込んでいくしか無いでしょう。

2SK3192のオン抵抗は50mΩしかないので、4Ωのコイルに3Aの電流が流れても0.15Vしか電圧降下はありません。損失は0.15*3=0.45Wです。しかもオンになっているのは1/4の期間だけなので平均損失は0.45/4=0.113Wとなります。

これにスイッチング時の損失が加わります。しかし12000rpm時でも100Hzというスイッチング周波数は、一般的なPWM周波数である数10kHzから数100kHzに比べると極端に低いので無視して良さそうです。と言うことで放熱器無しで試験します。


ここにはセミトラ試作機試験中の画像があります。

こんな感じで接続してセルボタンを押すと一発で始動・・・と言うのは嘘で最初は左右が逆でした(笑)。入れ替えると今度は本当に一発始動。

冷えていて800rpmくらいしか回っていないのに止まりません。ホホゥとか思っていると900rpmくらいまで上がってきました。ここで意地悪してライトを点けましたが回転がほとんど落ちません。以前は50-100rpmくらい落ちていました。

ちょっとワクワクしてきて空ぶかししてみます。良い感じです。我慢できんのでこのまま走りに行きます。走り出したらもう、30年くらい前のセミトラやフルトラの宣伝文句みたいな感じで感動です(笑)。

発進がスムーズで楽になりました。低中速のトルクが太くなっています。赤木峠を50-60km/h程度で登るとき、以前なら5速が限界でした。しかし今日は何も考えずに6速のままでスムーズに登り切っていました。

ガレージに帰ってきてアイドリングをさせます。エンストしません。灯火類を全部点けてバッテリー電圧が低めになってもエンジンが咳き込みません。なんか凄いです。


ここにはセミトラ試作機の一時側波形データがあります。

定量的じゃない感動話では理系じゃ無いのでデータを取りました。コイルが一緒なのだから基本的には変わっていません。しかしよく見ているとほとんどのピーク電圧が200Vを越す所まで行っています。

これは私の予想外でした。この部分はプラグ側の要求電圧によって決まってくるので、高性能の点火装置にしてもピーク電圧はそれほど上昇しないのでは無いかと思っていました。巻線比が100とすれば2次側の要求電圧は15-20kV程度で一定と予想していたわけです。


ここには拡大した点火波形があります

本当のピークが215Vなのかダイオードでクランプされているのか不安だったので横軸を拡大してみました。何と全ての山がダイオードで綺麗にクランプされていました。付けといて良かったです。ダイオードがなかったらFETが壊れていたことでしょう。

たまに先端がクランプされるくらいなら良いのですが15usくらいの期間ずーとクランプされています。一次側はもっと高電圧が出せるぞと主張しています。これはかなりエネルギーの無駄だと思います。調子はよいけどちょっと気に入りません。


ここにはプラグ無しの点火波形があります。

念のためにプラグの要求電圧を高くしてみました。実際はプラグキャップを引っ張り抜いています。予想どおりに容量成分がもっともっと高電圧を出そうとしていますが、ダイオードでクランプされて放電開始出来るほどの電圧が出ていないようです。230us程度頑張って、ダイオードにエネルギーを吸い取られてお終いみたいです。

だいぶ解ってきました。


GX250にとってセミトラ化は非常に効果が有りました。特にアイドリングの安定性と低中速のトルクアップははっきりと体感できました。逆に言えばそれだけ失火や失火気味の状態で有ったと言うことでしょう。

問題点としては容量成分のピークが毎回カットされている件です。これが解消されればくすぶり気味の時にもっと強力に火花を飛ばせるはずです。

面白いのはコイルなどを一切交換していないことです。今回の性能アップはポイントによる機械的な断続が半導体による断続に変わっただけです。半導体化は信頼性の向上だけではなくて発生電圧の向上と言う性能的なメリットも獲得できました。これは電流断の速度が向上したためと思われます。

これでも十分実用的に使えて満足していますが、やっぱりピーク電圧がきっちり出る改良型を作ってみたくなりました。


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