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トルクレンチを作る(その1)

なんとなく、小さなレンジのトルクレンチが欲しくなってきました。20-100Nmや50-200Nm辺りは3,000円前後の商品がありますが、5Nmや20Nmのレンジでは安価な商品が見あたりません。ビーム式でも5,000円くらいします。。。と言うことで自作してみる事にしました。

構造は製作も校正も簡単なビーム式にします。なんとなく順番が逆ですが(笑)、簡単に入手できる材料をピックアップし、それらからどの程度のスペックが実現できるか検討してみます。

当初ビーム材には太めのピアノ線を考えていましたが、売っている店が直ぐに見つからなかったのでホームセンターを物色します。直径がφ4.8mmあるVESSELの長いマイナスドライバーが見つかったので、これの軸を利用する事にしました。

軸にはCr-V、HARDENEDと記載があります。JISで言えばSWOCV-Vあたりでしょうか?だとすると熱処理にもよりますがφ5.0mmで引張強度が1470N/mm^2もあり、常温での降伏点も1000N/mm^2くらい有りそうな材料です。製品ですからメッキもしてあります。素晴らしい。


次に実現できそうなスペックを計算してみます。

最大でT(N・m)のトルクがかかったとき、片持梁でφ4.8mmの丸棒にσ=1000N/mm^2の応力がかかっているときにどれだけのトルクを負担できるか考えると、

Z=π*D^3/32=π*4.8^3/32=1.09*10(mm^3)
T=Z*σ=1.09*10*1000=10.9(N・m)

と言うことはこのドライバのシャフトを利用すれば、最大で11N・m程度のトルクレンチを作ることが出来そうです。

実際にドライバを観察すると荷重点(アームの長さ)は中心から190mmあたりになりそうです。この箇所に加えるべき荷重をF(N)とすると最大トルク時の荷重は

F=10/0.19=52.6(N)

となります。これは5.36kgf相当だから指一本くらいでじわっと荷重を加えるのにピッタリの荷重です。長さも必要な力も悪くない範囲です。

次に目盛りの位置での変位を検討します。先端に52.6Nを印加したφ4.8mmの片持梁の先端のたわみδmmを考えると。

I=π*D^4/64=π*4.8^4/64=2.61*10(mm^4)
δ=(F*L^3)/(3*E*I)=(52.6*190^3)/(3*205000*26.1)=22.5(mm)

となります。実際には目盛りの位置は先端部よりも少し内側にならざるを得ないから、変位は20mmくらいしかないと思われます。概算でトルクと先端変位が正比例と考えると、1mmが0.5Nmに相当するイメージです。まあこんな物でしょう。


材力的な検討はこのくらいにして、後は構造を検討して作るだけです。目盛り打ちは安物トルクレンチのチェックのように、「正」マーク付きのバネばかりを使ったプリミティブな方法でいけるでしょう。


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