RIGHT STUFF, Inc.

Right Stuff Wrong Stuff


容量成分と誘導成分

ちょっと込み入った点火系の話で出てくる「容量成分」と「誘導成分」の話です。基本的に"CDIじゃない"点火方式についての説明に成りますが、CDIの場合は「容量成分」がほとんどを占めているだけで、放電とかエネルギの考え方は同じです。


この波形はポイントが開いた瞬間の、点火コイルの1次側の発生電圧です。具体的にはポイントとコイルを繋ぐ線の電圧に成ります。実際はトランジスタ点火で試験していますから、トランジスタのコレクタとコイルが繋がっている所の電圧と言うことに成ります。

画面中央部に280Vくらいまで一気に立ち上がっている部分が有ります。この部分が「容量成分」の波形になります。プラグギャップに電圧が印加されていき、ギャップ間の混合気が絶縁破壊されて「バチッ」と火花が飛んだ瞬間です。

この部分のエネルギの出所は、点火コイルの2次側巻線やプラグコード等の微小な"コンデンサ成分"に貯えられたエネルギです。容量成分による放電→容量放電と呼ばれるのでしょう。

「容量成分」の右側に少し丘みたいに成った部分が有ります。30Vくらいの電圧が1.6ms程度続いています。この部分が「誘導成分」の波形になります。一旦絶縁破壊されてしまったために、280Vよりもずいぶん低い30Vの電圧で放電可能に成っていることが解ります。

この部分のエネルギの出所は、点火コイルの"コイル成分"に貯えられたエネルギです。こちらも誘導成分による放電→誘導放電と呼ばれるのでしょう。

このブラフは点火コイルの1次側を測定していますから、実際の放電に直接関係する2次側の電圧はこれの巻数倍(80倍とか)に成ります。


上記の文章はほとんど点火系の本などの受け売りなので、読んだことのある人も多いかと思います。私も本の記述で何となく分かった気持ちで居ましたが、本当の点火部分の電圧変化を確かめて見たくなりました。そこでやってみた実験がこれです。

左側から伸びている黒い棒がオシロスコープ用の「高圧プローブ」です。下から伸びている赤い柄のプローブが「少しだけ(笑)高圧プローブ」です。通常のプローブは減衰比が1:10なのですが、高圧プローブの減衰比は1:1000位有ります。少しだけ高圧プローブでも1:100です。

少しだけ高圧プローブは秋月に売っているので私でも買えますが、本物の高圧プローブはジャンク品でも数万円します。テクトロの新品なんか手持ちの全ての測定器を売っても買えません。仕方ないのでテレビ時代に使われていたと思われる、テスター用の高圧プローブの中古を買って改造しました。

自作の怪しい高圧プローブなので結果の信頼性には乏しいのですが、何も確かめずに本に書いて有る事を信じるだけよりは少しだけ進歩と言えるでしょう。その機材を使って実験したのか以下の内容です。減衰比は入っていた抵抗の関係で1:1150に成りました。


まず一番最初に確かめたのは、「ポイント上部の電圧を見ただけで、プラグ電極部の電圧変化と考えて良いのか?」と言う疑問です。

上の段がポイント上部の電圧変化です。下の段が実際の火花部分の電圧変化です。容量成分のピークが切れて居ますが、誘導成分の波形や長さなどは良い一致を示しているように感じます。これならポイント上部の電圧をチェックして、プラグ部分の電圧を想像しても悪くないように思います。


このグラフは容量放電部分を引き延ばしたグラフです。教科書に良く出てくる記述で、「プラグコードなどの微小な容量を徐々に充電していき、絶縁破壊された瞬間に放電する・・・」の部分が良く解ります。

放電部分の電圧が時間と共に徐々に上昇(実際には負極性なので減少か?)しています。この変化からコンデンサ成分の存在が想像できます。

画面中央部の約-18000Vまで上昇したところで絶縁破壊が起こって一気に放電して居ます。その後は-2000V程度で誘導放電が続いて居ることが解ります。

一部の方がやっているプラグコードに網線やアルミホイルを巻く行為は、2次側のコンデンサ成分を増やす事に成ります。その他の条件を同一と考えれば、このグラフの左側の傾きが緩くなるであろう事が容易に想像できます。

同じ電源(=点火コイルの発生電圧)で今までより大きなコンデンサを充電するために、充電に時間がかかってグラフの傾きが緩くなります。結果的に気にしても仕方が無いくらい点火時期が遅れ、コンデンサ成分に溜まるエネルギの割合が増えます。

しかしコイルやコイルに流す電流は同じなので、コイルに溜まったエネルギの総量は同じです。容量成分が増えた分は誘導成分が減少してしまいます。特別に凄いことや魔法では無くて、容量成分と誘導成分の割合を変えて居るだけの事です。良くなることもあれば悪くなることも有り、自分で施工しなければ気が付かない程度の変化かもしれません。


容量成分と誘導成分の割合を弄るには別の方法も考えられます。プラグギャップを広くしたりして放電電圧を高めに持って行くことです。その場合はグラフの傾きは今と同じで、ピークの高さが高く(=低く)成ります。コンデンサのエネルギは1/2*C*V^2ですから、電圧が高くなっても容量成分の割合を増やす事が出来るわけです。

この場合でもエネルギの総量が同じ為に、同一の点火系で実験する限りは誘導成分の割合が減少してしまいます。

書きっぱなしなので暇を見て推敲・追加していきます。


このボタンは、目次に戻るリンクです。